(3) 再会

▽コウ-情報屋(ミーシャ宅)
「記憶、ですか?」
「ああそうか。こやつは田舎出身なんじゃろう」
「え?なぜそれを」
「都会の者は記憶が自動的に都合よくなることを知っておる。私も若い頃はそれが正義じゃと記憶に書かれてしまっていた」
「・・・」
「私の娘、もといミーシャの母親はそれを信じて記憶を変えていくルッカーズの仲間入りをしたのじゃ」
「そんな・・・」
 驚いてるのは僕だけではないようだ。ヘレン先輩たちも口をおさえている。
「ルコの場合、実験失敗も想定し、記憶を抜いておいたのじゃ。そして実際失敗したようじゃがどうもわからん」
「どういうことですか?」
「・・・ルコが2人もいたのじゃよ」
「!」
「おや喋りすぎてしまったのう。そろそろ帰った方がよいぞ」
 歯がほとんどない老婆は笑いながら言った。

▼ルコ-箱
 くらい くらい はこのなかにわたしはいる
 もうわかっていた わたしは きおくのかたまりなんだと
 ゴミなんだと
 わたしは いらない ほんとうのルコだけが ひつようとされる

▽コウ-ヘレンとヘルモア宅
「突然の雨ね。しばらくは帰れないと思うしリビングにいて」
 帰っている途中ふりだした雨のせいでヘレン先輩たちの家に厄介になることとなった。レオン先輩は家がそう遠くないのでついでにエアカーも返しにいくそう。
 ヘルモア先輩は買い物に行ってしまい、ヘレン先輩と2人きりになってしまった。
「・・・ねえオッドアイって奇妙って思わない?」
「え?いや、綺麗だなあって思います」
「そう?私のこの緑色の目、目の病気になったお母さんのものなの」
「え・・・」
「色々あって今はいないんだけどお母さんひどかったわ。突然移植手術するって言い出して・・・。おかげさまで半分見えなかったの。でも今は矯正したから見えるの」
 にこりと笑ってはいるが、寂しそう。一体何が?
「ところであなたはどんな名家の息子なの?」
「別に一般家庭ですが」
「そんなことはありえないわ。だって、国立高校に合格しているもの」
「・・・そういえば母親の実家知りません」
「かなりのお金持ちなのは確かね」
「なら、どうして隠したんだと思いますか」
「駆け落ちとかしたら隠したくなるわよ」
 するとかわいらしい手帳を取り出した。
「あなたの家族構成教えて」
「母の名前はリーフェ、父の名前はトニーです。双子の妹は知ってのとおりルコです」
「まさか・・・そんなはずは」
 メモ帳を落とし震えるヘレン先輩。そしてたまたまめくれたページには恐ろしい真実が書かれていた。

▽ルコ-?
 目を覚ますと私は見慣れない場所にいた。ポフ。手には柔らかいクッションの感覚。
「あら、気がついた?」
 ニコリと微笑む女性。私はキョロキョロとあたりを見回す。狭いが綺麗な部屋。私の記憶の中では最も粗末な部屋。
「私の名前はエレナ=フィール。娘と息子に会おうと頑張っているの」
「なぜですか」
 私は自分から声を出せたことに驚く。なに、これ?
「・・・私と子供たちは昔離れ離れになったのよ。まあ、少し前の話だけど」
「わたしをたすけてくれたりゆうは」
「そうね。あなたのことが気になったから」
「・・・わたし、ルコ=マーチェス」
 すらすらと名前が言えた。どうして?
「メイたちまさか・・・」
「?」
「一刻も早くルッカーズから逃げましょう。うかうかしてたら私も捕まえられるわ」
「はい」
「さ、森に行ったら私の家もあるはずよ」
 その女性は静かに微笑んだ。なぜか心地よかった。

▽コウ-フィール家屋敷応接室
「え?こ、これは?」
「あなたの家は崇拝なる魔術の持ち主で、はるか昔の中世には高等魔術師とかいたらしいの」
「・・・」
「マーチェス家。聞いたことない?」
「え!?あ、あの英雄クゥオンの・・・」
 2031年、僕の住んでいた村と大きな街(別の民族がいた)が紛争を起こした。その時突如鎮めたのがクゥオン=マーチェスだった。彼は英雄として崇められている。
「僕、子孫なんですか!?」
「いいえ。クゥオンの妹の血筋よ。クゥオンはほら、一生独身だったじゃない」
「・・・重要なこと忘れてました」
「ふふふ。まあそれはいいとして。マーチェス家で遺体が数年前見つかったそうなの」
「!?」
「誰のか誰も記憶にない。消されてしまったのよ」
「そうですか」
「ただいまー!」
「ヘル、お帰り。雨やんだ?」
「うん、まあね。ほら早く帰って。明日も学校だよ」
「は、はい!」
 僕は大慌てで飛び出した。

▽ルコ-フィール家の森
 どれくらい歩いたのかわからない。でもなぜだろう?私、ちっとも疲れない。あれ?疲れるって何?
「ねえエレナさん。疲れるって何ですか」
「あなたはもう感じれないわ。足が痛くなったりまあ体力を消耗しつくすことじゃないかしら」
「え」
「いい?あなたはほとんど人間じゃないの。私は少ししか知らないけど確か生ける最強の電子体にするとか言ってたわね」
「へー」
 そのとき、誰かが目の前に現れた。私はつい言っていた。
「お久しぶり、かな?それともはじめまして?」

▽コウ-フィール家の森
 僕が走っていると突然見覚えのある少女と出会った。彼女は涙目で
「お久しぶり、かな?それともはじめまして?」と言った。
「ルコ!会いたかったよ」
「お久しぶり、なんだコウ」
「何なの・・・?」
 近くにいた女性はキョトンとしていたが、ヘレン先輩の目を左右逆にしたようになっていた。
「あなたはまさか、ヘレン先輩とヘルモア先輩の・・・」
「・・・ええ、母親よ。今から都市に戻ったってたどり着かないから外泊届けをタブレットから転送することをおすすめするわ」
「はあ」
 ルコは僕に抱きついて泣いてる。会いたかった、とかわかんないよ、とか時々言っている。
「お、お母さん?」
「あらヘレン」
「おやおや。お母さんとルコ、かな?」
「こ、この人誰?でもヘレンは見たことある・・・」
「え?ルコ、どうして?」
「コウ、ヘレンはね、手術をルッカーズの中で受けたの!」
 嬉々として言うルコ。事態のみこめてない。
「えへへ。でも会えて嬉しいよ」
「僕もだよ、ルコ」
「とりあえず今までのことを中でゆっくり話しましょう」
 女性はにこりと笑った。