1.王位を継ぐ者

 あれから何十年もたち、私はイーヴェル国女王としてただ1人で治め続けている。
 娘はもうじき15になる。そろそろ恋愛話も聞いてみたいところだ。
「ただいま〜」
「お帰り」
 王宮に帰ってきた娘のレミア。彼女はアステリアとイーヴェル、両方の血を持っている。
「ねえ彼氏とかいないの?」
「しつこいな・・・。いらないよ」
「わかっているの?あなたは一般庶民じゃないの!」
「お母さんだって元一般庶民じゃん」
「違うわ。私はアステリア第一王女よ」
「ならなんでアステリア捨てたのよ」
「お母様に言われたわ。『あなたは子供と生き延びなさい』って・・・」
 黙りこむレミア。
「ふうん。ところでさお母さん、今日は友達の家でパーティーするから夕食いらないわ」
「・・・そう」
 そろそろ私は王位から退き、笛華宮という場所で落ち着かないといけない。娘に渡さないといけない。私が生きれるのも多分あと5年・・・。人間の寿命は50だから・・・。

「本当ウザイよお母さん」
「仕方ないって!王族は自由になれないんだから」
「・・・そうだけど。あ、そうだ。今度旅行行くじゃん?私も連れていって!」
「えっ逃げる気・・・?」
「もちろん」
 お父さんの姿は見たことないけど、きっとどこかにいるはずだ。一足先に笛華宮にいるのかな・・・。
「・・・あなたまさか知らないの?」
「え?どうしたのよミーシャ」
「トルメスア王は砂漠で瀕死の状態で見つかり、現在入院中よ」
「え?そうなんだ・・・」
 パーティは楽しい。国の政治なんて分からない。だから継ぐことは出来ないのだ。
「ともかく、私は継いどけってこと?」
「多分ね」
「うっ」
 何も教育を受けていない私は母を恨んだ。

 翌週。王位権彰式が行われた。レミアに継がせるのは不安だけれど仕方ない。夫のところへ行きたい。それだけ。
「お母さん、貰うよ〜」
「言葉使いを改めなさい!」
 国民の前だ。少しは敬語を覚えさておくべきだったと反省した。
「お母様、ありがとうございます」
 渋々言い直すと、冠を貰い一礼し、そそくさと王宮に帰った。
「レミア女王万歳!レミア女王万歳!レミア女王万歳!」
 それでも国民は喜んでくれた。

「政治、かあ。分からないな」
 政治と言えば私は不得意だ。まったく時事が分からない。
「さて学校行くかな」
「お待ちください!」
「何よ」
「我々が・・・」
「ついてくんな!そんなのストーカーよ!」
 警備はいらない。友達がいるから。
「じゃあね〜」
 大臣から逃げる。こっそり陸上部に入ってる私をナメないでよね!

「おはよ〜」
「あ、大臣とかいないの?」
「多分今頃息切れ中」
「・・・まあいいや。行こうか」
 何気ない日常。友達と登校出来る楽しさ。
「そういえばレミア。今日、転入生が来るらしいけど」
「へえ。中々の情報ね!シトレア」
「ミーシャは?」
「え、私?なんかね結構イケメンの王子らしいと聞いたわ」
「え、王子!?」
「なんだ。レミアにぴったりじゃん」
「もうシトレア!何言ってるのよ!」
「でも私も結構レミアにあうと・・・」
「ミーシャまで!」
 私たちは笑いながら学校へと急ぐ。遅刻しそう・・・。

「初めまして。ヘリック=アンダーソンです」
 中々のイケメンだ。レミアにあげるなんてもったいないくらい。
「え、アンダーソン国の第三王子!?」
「おや女王。そのような大声ははしたないですよ?」
 クスクスと笑う王子。ああ、素敵だ・・・。
「ではミーシャさんの隣で」
「ふえっ!?」
 ・・・ミーシャも見とれていたようだ。

 私の隣にイケメン王子か・・・。
 第一と第二はあまりかっこよくない。だから評判は悪く、32と30になるのに未だに独身を貫いている。
「ああ、素敵・・・」
 わかっている。何のために来たかぐらい。兄たちのように失敗せずに15で嫁を手に入れようというわけだろう。ああ、私がなりたい・・・。
「ミーシャ、大丈夫?」
「レミアも素敵と思うでしょ?」
「え?そうかな・・・」
「レミア、あなたには乙女心がないの!?まあいいけど」
「ええ?何よそれ」
 本当にレミアは恋と政治に関しては疎すぎる。王子と結婚する・・・とか言い出さないタイプ。
「あ、シトレア。ねえどう思う?」
「かっこいい!」
 レミアを見ると呆れて本を読んでいた。

「本当に何なの!?」
 私は恋愛なんて嫌いだ。母親みたいに戦時中ではないしまあそれなりに自由でも私はどこがいいのかさっぱりだ。
 母親は戦争中の敵国へと嫁いだ。それが戦争を激化させ、イーヴェルを一度滅ぼすこととなった。母親の決断は素敵だと思うけど。
「2人はどこかな・・・」
「僕を捜しているんじゃないかな?♪」
「お、王子!?」
「ヘリックって呼んで♪」
「・・・何の用?」
「んもう冷たいなあ・・・。女の子から逃げてるのさ♪匿ってよ!ほら来た・・・♪」
 私を近くの掃除箱に入れ、自分も飛び込んでくる。近い・・・。
「このままキスしちゃう?♪」
「えっ!?」
 ヘリック王子の顔が私に重なる。キスされた・・・。
「どこよ!ヘリック〜」
「シトレア、いないわよ」
 シトレアとミーシャとカトレシア。何で仲の悪いカトレシアまで・・・。
「んっ・・・」
 それにしてもキスは長い。全然離してくれない。
「ふう。これぐらいでいいかな♪」
「もう・・・いきなりしないでよ」
「ははは。僕の国じゃこうして深い愛を伝えるんだけど・・・♪」
 ドキッとした。王子の表情が笑顔から真剣な顔になる。
「僕と結婚してほしいんだ」