0.ハジマリのオト

 アステリア王国。それはかつてない繁栄、平和が訪れていた。隣国・イーヴェルとの戦争に勝ち、今の王は膨大なる国民の支持を受けていた。
 だが、誰も予想はしなかっただろう。この超繁栄を見せていたアステリアが滅ぶというこを・・・。

 王様の娘である王女はミステリアス。世話を担当した多くのメイドが逃げ出し、倒れたと噂だ。
 私の本名はメイリアス=イーヴェル。まだ15歳の王女の義姉だ。私は父親を裏切り戦時中、隣国・イーヴェルに嫁いだ。
 父親があれほどの国を治められている理由。父親は『神聖なる者』の巨大な魔力を使い、国のダメなところを改善している。それはいけないことだ。死んだら地獄に行くだろう。
 『神聖なる者』とは、かつて巨大な魔力をもってここを治めていた王様だ。私のおじいちゃんにあたり、私の父親に殺されている。そんなことが表沙汰にならずに済むのはいつまでだろうか・・・。
「メイ、王女の世話は任せまし・・・た・・・」
 ここでの仮名はメイだ。記憶喪失の少女として扱われている。(実年齢は30歳だけど顔を変えたから)
 夫であるイーヴェル王・トメルアスはルアという仮名をつけられた記憶喪失の少年として扱われている。
「メイ様、待っていましたわ」
「メイルア様、なぜ私などにそのようなお言葉使いを・・・」
「私、見えるの。あなたが消えた私の義理の姉だと」
「え・・・?」
 足の弱いメイルアは多くのメイドが隠す素性を見ている。
「そんなの覚えて・・・」
「ない、とでも言いたいの?お父様はもうそろそろ限界よ。精神の糸、というものが切れかけているの」
「何ですかそれ?」
「簡単に言うと人間が死ぬ時期が分かる糸みたいなものかしら」
 今まで窓に向けていた透き通るように白く美しい顔を私に向ける。
「もうそろそろ国民にかけた魔力も限界ね・・・」
「え?」
「今ならお父様に対抗出来るわ。お祖父様の魔力は最強であって、無限ではないのだから・・・」
「・・・」
「お義姉さま、イーヴェル王を呼んできてちょうだい」
 メイルア王女は微笑んだ。

「くっ・・・気に入らん・・・あやつがなぜ・・・」
 私は最強の魔力を手に入れた王者だ。死ぬなどはありえない。
「なぜ、なぜだ・・・!国民の心が見えない・・・」
 私は死ぬ・・・?まさか。有り得ないだろう・・・。

「出来るわけないでしょう、メイルア王女。ご冗談を・・・」
「人という愚かな生き物は死ぬもの。あの男は馬鹿なの。なにも分かってないの」
 いつもより厳しい目を向ける。
「トメルアス王、メイリアス王妃。あなたの国はもう廃墟同然ですけれども・・・この国のイカれた王を倒しましょう」
「どのように・・・?」
「確かイーヴェル国ではどのような階級の人でも武術を習うという義務がありましたよね?」
「つまり、俺が殺せと?」
「ええ。さて行きましょう。お義姉さま、車イスを押してくれるかしら」
 私は無言で頷いた。

 王宮は広い。とてつもなく広い。そして、王の部屋は『神聖なる者』が生前使っていた地下1階。そこに王はいた。
「ほう、来たか・・・」
「愚か者、死ぬがよい
「フフッ・・・私が死ぬわけないだろう?メイルアス。それに愚か者とは。口調を正しなさい」
 余裕な感じの王に剣を構える夫のトメルアス。
「愚か者、あなたの愛したメイルアス王妃はここにいるのよ。そこのメイリアスの母親の」
「なっ・・・」
 私が裏切ったあと自殺したらしい母親。どうして・・・
「なぜだ・・・」
「答えは言わないわ。トメルアス王」
 名前を呼ばれ、彼は王に剣を深く刺した。
「う・・・がぁ・・・」
 パタリと王は動かなくなった。

 あれから私と母親とトメルアスによる復興は始まった。平等社会、職業自由の実現。
「メイリアス!大変だわ。もうすぐここは滅んでしまうわ」
「どうしてなのですか?」
「・・・砂漠があるでしょう?王は魔法でくいとめてたみたいだけど余計に悪影響を与えているわ」
 王都の遥か南にある砂漠。ここ数年は魔法により砂漠の面積は狭くなる一方だったがそれが悪かったらしく、逆に広がっている。
「じゃあ皆を・・・」
「無理よ。メイリアス、あなたは子供と一緒に生き残って」
「どうして」
「そう予言があるの。さらに混乱を招かないようにと・・・」
 その夜、アステリアスは砂漠に飲み込まれた。

 ザーッ・・・・・・