近代(1975〜1988)

 1975年。それはそれは寒い1月。
「そろそろ我も位を下りる時じゃな」
 今年で我は45歳。そろそろ娘のいとことかに交代するかのう。
天皇様!」
「何じゃ!」
「も、門のところに変な男が倒れていました」
「男?男じゃと!?」
「て、天皇様・・・?」
「すぐに連れてくるのじゃ!!」
 我は微笑む。

「あーあ。つまんなーい」
 私は亜草。今の天皇の孫なんだけど、その天皇のおばあちゃん・花草の妹、香草の孫とかがいるもんだから私にはなかなかまわってこない。香草の姉・与草のように香草も自殺すればよかったのにね。
「ねえねえ、お母さん。何かニュースない?」
「先程、門の前に男が倒れていたそうよ」
「本当!?で、どこにいるの?」
「あなたのおばあさまの元へ」
「それは行かなくちゃね!」
 はっきり言うと、19にもなる私が結婚していないのはおかしい。母親も呆れているようで見合いなんかはない。おばあさまも私に関しては「好きにするがよい」と言っていた。
「どんな人か楽しみ♪」

「ぷはあー!助かりましたよ!」
「ほほほ。面白い男じゃのう。まさかティラミス国の北部にある村から家出など馬鹿としか言えぬ」
天皇様、馬鹿で本当にすみません」
「いいんじゃよ」
 その時、誰かが部屋に入ってきた。なかなかの美人だ。
「おや、亜草。お主を呼ぼうと思っていたが来てくれたか」
「は、はいおばあさま」
天皇様、こちらはお孫さんですか?」
「ああ、そうだが?」
「初めまして。おばあさまの孫で亜草と申します」
「確か、ええと・・・」
「位の引き継ぎですか?私は2番目ですが」
「・・・ほお、そうですか」
「亜草、京助さんとゆっくりお話ししなさい。我は色々と手続きを行う」
「はい、おばあさま」
 感心した。亜草さんは素晴らしい人だ。

 たまたま、俺と母さんは都に貝を売りにきた。なのにわけわからないことに巻き込まれた。
「失礼ですが、海助さんですか?」
「はあ、そうですが」
「少しついてきてもらいたい」
「?」
 立派な身なりの男性。彼はなぜか俺の名前を知っている。たかが貝売りの男だぞ、俺。

「・・・ここって宮廷じゃないかーーーーーーー!!!」
「あらあら」
「静かになさるよう」
 雅な宮廷。そんなところに俺が・・・?
「に、兄さん!?」
「おお、海助に母さん」
「んまあ、どうしてここに?」
「いや、少しな・・・その・・・」
「ほほほ。我の後継ぎじゃよ?」
「えーーーーーーーーーーー!?」
「驚かれるのも無理はないが、これから生活する上で嫌われぬよう努力するために大声は控えるようにな」
「・・・え?」
「生活?」
 事情が飲み込めない。どういうことだ?
「京助!」
「おお、亜草。どうした?」
「挨拶に来たの。初めまして、結草元天皇兼上女中様の孫で、次期天皇様の妻の亜草です」
「う、上女中?え?う?」
「ほほほ。面白い男じゃのう。大臣にならせるのじゃが、平気か?」
「え?大臣?俺が?」
「そうじゃが」
「次期天皇様の弟様ですし」
「私はどうなるのかしら?」
天皇様と大臣のお母様もここで暮らすこととなりますが」
「へえ、なるほど」
 母さんは納得しているが、俺は・・・
「納得しねえええええええ!」

1980年5月6日
 我に待望の長男が誕生した。しかも、亡くなった我の父の誕生日に。
「可愛いのう、安之上」
「 あらあら、素敵な名前だこと」
「ほほほ、そうですねえ」
 時代は移り変わっていく。あんなに宮廷暮らしが嫌と言っていた海助も、今では嫁ももらい、幸せそうだ。
 ちなみに我には世話係の右羽京がおり、ずいぶんと楽だ。

1985年3月末
 安之上の5歳の誕生日が近いのに、我は倒れてしまった。
「あなた、無理しなくていいのよ?」
「だが・・・」
「息子のことは任せて。ね」
 我は頷き、もう一度眠った。

 もう二度と夫は目覚めなかった。どうしてなの・・・?誰が悪いの?
「お母様〜」
「・・・安之上」
 我は少し考える。
「悪いけれど右羽京。安之上を頼む」
「は、はい」
 我は京助がいないとダメだ。もう、終わりにしよう・・・。

 それから数日後。亜草の遺体が見つかった。
「お母様?」
「・・・」
 どうやら私がお母様だと勘違いをしている幼い安之上様。
「そうでございますよ」
 しばらくはお義母様になるのもよいかもしれない。

1987年
「前みたいに失敗すんなよ?」
「ああ」
 前は計画が宮廷に筒抜けで、失敗した。第一次は見事に成功し、当時の天皇姫乃浜を見事に殺せた。(※花草の生きていたころ)
「いくぞー!」
 私たちは宮廷に向かって走り出した。

 のちの文献によると、第一次の時より、貴族は殺せなかったらしい。
 こうして翌年、1688年続いてきた平安時代は幕を閉じることとなる。