第5話 暗殺者・メイ

2022年3月8日 ウェルファント家屋敷−食間
「お父様!あのねあのね」
「ハハ、なんだい?ナージャ
「今日ね・・・」
 うるさい。本当に私の妹なの?あんな騒がしいガキが。たった2つしか変わらないというのにこのザマだ。呆れる。
ナージャ。後でお話してちょうだい。メイの殺気が感じとれないの?」
「あ、ごめんなさあい」
 その謝り方に余計イラッときた。私は立ち上がる。
「そういうところがムカつくのよ!暗殺技術の授業をサボってばっかだし・・・」
「メイ、そこまでにしとけ」
 お父様の言うことには従わなければならないから私はおとなしく座る。
 今日は大好きな鹿のジビエはあまりおいしく感じなかった。

−屋敷2F・メイの部屋
 この家では暗殺技術を特に身に付けることが義務とされている。私はそんなに苦痛ではない。でも妹は嫌がっている。お馬鹿だ。
「メイ」
「お父様?どうされました?」
「エレティアが生きていたようだな」
「もう知っています。私があの時魔法で行ったのがそもそもの間違いでした」
「・・・では今回は」
「ふふふ。贈り物をします」
「そうか。わかった」
 次に妹が入れ違いで飛び込んできた。
「お人形で遊ぼうよー!」
「そんなもの興味ありません。離れなさい」
「えー」
「さっさとどけ、このガキ」
 無理矢理追い出す。鍵を閉める。
 魔女は毒でも殺せる。かなり前のことだが、ポールの母親はポールの祖母に毒で殺された。それが証だ。
「ふうっ、さてどうやって作るかな」
 お母様が毒作りのプロだったはず。庭園に行ってみよう。
 扉を開けると、妹がまだいた。私が出てくると目を輝かせてきた。
「遊んでくれるの!?」
「どきなさい」
「むぅ」
 私は妹を無視した。

−庭園
 お母様はいつもどおり毒作りにかかせない植物の手入れをしていた。
「お母様」
「あら何?珍しいわね、ナージャを連れてくるなんて」
「え?あいつ?」
「てへっ」
「この・・・!」
 手をあげた私をお母様は止めた。
ナージャメイドさんに遊んでもらいなさい。私達は重要なお話をするのだから」
「はあい」
 不服そうな顔をしながらも妹は屋敷に引き返した。
「さあ、お茶を飲みながらお話しましょう」
「はい」
 庭園の中にあるちょっとした建物。ここはお茶部屋と呼ばれている。
「それで?何の用で来たの?」
「お母様。私はエレティアを殺したいの」
「あらあら。そうなの。それで毒を作ってほしいと?」
「はい」
「構わないわ。最高のを作ってあげるから」
 にっこりとお母様は笑った。
「今日はお庭でとれたハーブを使ったお茶よ。おいしいかしら」
「ええ。とても」
「そういえば最近あの人変じゃない?」
「え?お父様のことですか?」
「そうよ。何か焦っているみたいで・・・よく、テッドさんに対して怒鳴り散らしているのを見かけるの」
「・・・」
 あのお父様が?まさか、リリアをつれ戻せなかったことに対する憤り?
「私はね、もう一度三家の奥様たちでお茶したいわ」
「フィール家の奥様となら実現すると思うけれど、ウインディア家とは・・・」
「わかっているわ。あの家が崩壊気味なのも」
「・・・」
「リリアが逃げてしまって竜は全て闇の魔女とか闇系統の魔法を使う者の手中におさまってしまったと私は聞いているわ」
 お茶を一口飲む。とても、おいしい。
「ねえあなたはその2つの家の子とお茶したいとは思わないの?」
「・・・私の妹と同じ年のガキとは嫌です」
「ふう。これだから困るのよねえ。もう少し世界を見ればいいのに」
「・・・」
「政府情報整備団だっけ?記憶を書き換える、正に正義!って感じかしら」
 うっとりとするお母様。正義、か。
「お母様。お茶美味しかったですわ」
 私は、門の外に出ることにした。

−メインストリート
 ここにはおしゃれなお店が立ち並ぶ。車という少し前の乗り物をのりまわす人がたまにいる。
「っ!」
「うっわあ、メイねえすっごーい!」
「何してるの?リーフェ」
 後ろにリーフェが立っていた。思わず蹴ってしまったけど彼女は避けた。
「ええとね、ナージャねえちゃんと遊ぼうかなあって」
「あら、そう」
「メイねえちゃんは?何してるの?」
「少しお散歩よ。いい物あれば買うけれど」
「ふうん。じゃあね!」
 彼女は無邪気で明るい。暗黒の魔法使いポールとかがいるフィール家の娘。
「もうこんな季節なのね」
 途中、いい商品を見つけたのでポケットマネーで買った。
「・・・エレティアには何を贈るべきかしらねえ」
 お父様に相談するしかない。
 すると、お父様が近くの店の中にいるのが見えた。テッドさんと一緒にいる。
「全く、どういうことなのだ!?エレティアが裏切るとは」
「そもそもなぜポールと繋がったのやら」
「はあ。なんということだ・・・私は早くあの家を始末せねばならないのに」
 さりげなく近づいていく。
「お父様たち。エレティアはポールの母親と親友のようで、ポールの母親・リーフは『自分が殺されたら親権はエレティアに譲りたい』と生前言っていたようです」
「おやずいぶんと詳しいな」
「あの家は緻密に調べていますから当然です」
「では、なぜしばらく祖母が親権を握っていたのか分かるか?」
「ずいぶんと強欲で傲慢なおばあさんでしたからね。リーフが子供を生んだあと子供を亡くしたというデマを流したようでさすがのエレティアも分からなかったようです。ちなみにそのおばあさんはポールが魔術の暴発により殺しています」
「ほほう。素晴らしい。では、リリアについて調べてくれ」
「了解しました。跡継ぎですね」
「そうだ。もう歌は歌えんだろうが、結婚して子供生んでもらわんとなあ」
 すごい、楽しみ。

同年3月10日
リリア−フィール家屋敷
「奥様〜!エレティアさん知りませんか?」
「え?どうしたの?」
「エレティアさんあてに宅配が・・・」
「ふわあ、ん?」
 エレティアさんが箱を開けて目を輝かせる。
「まあ!幻のチェリー?素敵!」
 そう言うとすぐ口にいれた。
「ひっかかったわね、愚かな炎の魔女
「っ!?」
 少女が現れた。すると、エレティアさんは倒れた。
「うぐっ・・・」
「さあリリア来なさい」
「嫌ぁ!助けて・・・!」
 ポールが現れた。手を伸ばしたが届かなかった。

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 この事件により、ポールは愛する妻と信頼していた義理の母親を失った。リーフェは束縛を受けることとなった・・・。
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