第1話 魔術
1998年4月10日
「お母様。無事に生みました」
「そう。もちろん女の子よね?」
「ーっ!」
「その反応だと男の子。全く、マーチェス家の恥だわ!」
「・・・でもお母様。鍛え上げればこの子だって立派な魔導師になれるわ」
「そんな期待できないことを言わないでほしいわね」
「でもーっ!」
それから2日後。リーナ=マーチェス(16)が病室で毒死しているのが発見された。残されたポール=マーチェスは、ルフェクタ=マーチェス(32)に引き取られた。
2012年4月12日 ポール=マーチェス−マーチェス家屋敷
「ルフェクタ様。朝食です」
「ええ、分かったわ」
14歳になり、46歳の祖母に対して不信感を抱き始めた。
14年前、亡くなった母親。祖母に散々僕について言われたため、ストレスによる自殺と判断された。しかし祖母が殺したのだろう。
マーチェス家では男は愚かなる者とされており、魔導師になる確率はないらしい。しかし僕は例外で特別に教えてもらっている。
「いただきます」
「ポール。今日はテストですわね。100点とってください」
「・・・はい」
「今日はあなたが帰ってきたら魔導師連合に行くわよ。そろそろ顔を見せなければならないからね」
「分かりました」
冷酷な祖母は完璧をいつも求めてくる。その為、遊べない。
「ごちそうさまでした。では行ってまいります」
しかしいつも返事はない。むなしい。両親が欲しい。
−学校
「よおポール!」
ここの学校は良家の人しか入れない為、それなりにマナーを身に付けた人ばかり。
しかし例外はいる。目の前にいる三大臣の一人・メチェアの息子である。
「本当に自由奔放に生きているな」
「へへっ。おめえのところの頭かてえおばさんとは違うもんな」
「あ、ああ・・・」
メチェアは厳格だがそうとうな親バカらしく、一人息子のテーリアにはそうとう優しい。僕の祖母とは全然違う。
「あ、今日テストだっけ」
「ああそうだよ」
「おめえ大変だろ?1つでもミスしたら家追い出されるんだから」
そう、1年生のとき少し油断をした。そしてミスをして家を1週間追い出された。
「ルフェクタ様は完璧しか求めていない。自分の娘が間違って生んだ男の子がどこまで完璧になれるか。それを見てるんだ」
「あーなるほど」
「おはよう!」
「あ、リリア」
「んもう相変わらずだねえ、ポール」
「・・・仕方ないだろ」
「リリアは今日も0点かっていてえよ!」
「んもう!言わないで!」
リリアがテーリアを殴る。日常的な光景だ。
「さ、早く勉強しよう」
−魔導師連合
放課後。リリアとテーリアの誘いを今日も断り、ここにやってきた。
「ルフェクタ様」
「ポール。このローブを羽織ってください」
「は、はい」
それはとても立派なローブ。紫色の蝶の刺繍がとても綺麗。
「あなたの母親リーナが着るはずだったローブよ。2年早いけれどもここに入るため特別に許可するわ」
「・・・はい」
「ディティ!いるのでしょう!?孫を連れてきたわよ!」
「おやおやルフェクタ様。これはこれは」
「遅いわよ!」
「はっ申し訳ありません」
「この子が次期当主のポールよ。娘が死んだから掟破って私が36年ぐらい当主するのだけれども」
「ほほう。男の子ですか・・・」
「・・・結構いい腕もってるわ。2年後、楽しみにしてちょうだいね」
「はい」
「さて、ポール。少しディティと話をしていきなさい。私はここの3階に行くから」
「はい」
恐ろしい顔つきのディティさんはペコリと頭をさげた。
「では中へどうぞ」
「・・・はい」
ルフェクタ=マーチェス−魔導師連合3階・宝物庫
この宝物庫にはマーチェス家から預けた銃などが丁重に保管してある。
「ふふ♪」
私はその中から愛用品を取り出す。いまから殺戮を行う。
「裁きを行うわよ」
ニヤリと微笑む。
「わ、何をや−」
次々と殺していく。ああ、この快感!孫が生まれてからは封印してきたこの快感!
「あははははは!」
そう、死んでしまえばいいのよ!
「皆死んじゃえ!」
私は高笑いをする。
やがて、宝物庫に入ろうとする者がいなくなった。
「あははははは!」
私は高笑いを続けた。
ポール=マーチェス−魔導師連合2階・小部屋
「今から少し、昔のことを話しましょう」
「・・・?」
唐突にディティさんは話出した。
「私はルフェクタ様の夫です。つまりあなたの祖父」
「!?」
「しかしマーチェス家の伝統により、リーナ様が生まれてからすぐに私は離れろと先代の当主様に命じられました。それはとてもとても悲しくてつらくて。でも・・・会わない内に彼女は壊れてしまったんです。先代が避暑のために建てた別荘をあえて先代がいるときに燃やしたのです。その時既に当主はルフェクタ様になっており、逮捕もできず・・・。もう、23年も昔の話です」
どこか恐ろしいところを秘めている祖母。やはり、狂っていたのか。
「気に入らない者・・・特に、派閥の違う者を次々と殺戮もしていきました。次第に力は強大になり、私も止められませんでした。滅ぼされた名家がどれくらいあるのか・・・。10数えたところで私は数えるのをやめましたが、少なくとも孫であるあなたが生まれるまで殺戮は続けていたと思います」
「え・・・」
「1998年の冬のことでした。『もうすぐ孫が生まれるから銃など危ない物を預かってちょうだい』と虚ろな目で頼まれました」
「・・・」
その時、扉が開いた。虚ろな目をした祖母が血まみれで立っていた。
「ディティ、何をしているの?」
「ル、ルフェクタ!」
「私たちはもう夫婦でもないのに気安く呼ばないでちょうだい!」
祖母が銃を続けて撃つ。目を閉じる。
音がおさまり、目を開けるとディティさんはただの赤い塊になっていた。幸い、血は僕のズボンにしかついていない。
「ルフェクタ様・・・」
「あなたも殺してア・ゲ・ル!」
咄嗟に炎を繰り出す。ルフェクタ様の美しい顔に炎がうつる。
「あああああアアアアア"ア"ア"ア"!」
叫びながら倒れる。美しかった顔が年相応に変わりながらも黒くなっていく。
すべてが、終わった・・・。