第2話 飢餓時代とは

「あ、あの、リリィはいますか?」
「ええ、いますよ王女様。外に出ないで家の中でなら会ってもいいですよ」
「はい」
 とは言われても私はリリィの家にあまり来たことがなかった。一昨年、現在の公爵の父親が公爵だった頃、お父様と共にきたことはある。
「あら王女様。リリィに会いにきたのですか?」
「ネルさん、あのーリリィのお部屋ってどこですか?」
「案内しますわ」
 リリィと同じ髪色はしているが、リリィの何十倍もお上品だ。
 リリィのお部屋は2階の長い廊下のつきあたりにあった。
「ではごゆっくり。でも夕刻までにはお帰りくださいね」
「はい。リリィ?入るよ」
 入るとそこはピンクだらけで立ちくらみを起こしてしまった。リリィはというとあの本を抱いて寝ていた。
「リリィ?こんなに女の子らしかったっけ?」
「違ーーーーう!これはお母様がデザインされたものだからかえれないの!」
「あ、起きてたのね」
 リリィは私に本を押し付けてきた。
「これ、返す。何か嫌な夢見ちゃった」
「・・・そうなんだ」
「それにさ、それカイトっていう名前でてくるの。国王様の名前だよね」
「うん」
「おっかしいなあ。これって100年以上も昔のことのはずなのに」
「でもお父様、30代にしか見えないよ」
「だよね?ミクを養子にしたのは14年前だから同じ名前の別の人かな」
「でも、王族でカイトって中々いないでしょ」
 ううむ。お父様があの中にいることも何か関係しているのかもしれない。
「そういえば嫌な夢って?」
「飢餓から解放され歓喜にわく人々。でもその内人々は次々と病に倒れ、戦争も始まった。そして・・・青い髪の男以外みんな、死んでしまったという夢よ」
「うへえ、嫌な夢」
「でしょ!?」
「ってそろそろおやつの時間だね。どうする?」
「今日は一緒に食べようよ」
「うん」
 階下におりて、応接間近くの台所へと向かう。すると・・・
「ネル、国王を殺さなければならない」
「なぜ、ですか」
「私の妻・・・ネルやリリィの母を死においやったということがわかってな。リリィには過剰に騒いでもらうとしてネルには驚きで倒れてほしい」
「わかりましたわ、お父様」
 ぎいっと開きそうな音がしたため、私たちはいそいで台所に行った。
 そこにはブリオッシュが置いてあった。メイドが作っておいてくれたんだろう。
「ブリオッシュ作ってるってことは今日のおやつ担当はグミね」
「その人ブリオッシュ作るの得意なの?」
「うん。紅茶もおいしいよ」
「ああ!ネルお嬢様にミク王女様!もうしわけありません!紅茶をいれていたらつい遅くなってしまい・・・」
「いいのよ。さ、グミも一緒にお茶する?」
「いいのですか?」
 急いで部屋に向かっていった。

 私はよく孤独とか言われる。でも私は孤独じゃない。たくさんの実験体が私と共にいてくれる。
「ルカ先生、お茶にしましょうよー」
「ああ、ありがとうね」
「それはなんですかー」
「カイトを水槽から出すための装置よ。壊れてたから修理してたの」
「私もいつかできますかー?」
「ん、それはダメよ。万が一失敗すると困るから私が死んだら自動的にカイトも死ぬわ」
「わかりましたー」
 私はイアのいれたミルクティーを飲む。うん、中々いいじゃないの。
 イアは本の山にてとてと走っていって1冊抜き出して私に渡してくれた。
「ん!」
「ああ、読んでほしいのね」
「読んでくださいー」
「『今から200年ほど前、大洪水などの自然災害にみまわれ、この国では作物がほんのすこししかとれなくなりました。人々は生きようとしてまず罪人たちを殺しました』」
 残忍な内容にふうっとため息をつく。
「怖いですねー」
「『そしてその罪人の肉を人々は平等にわけ、大事に食べ出しました。しかしすぐに足りなくなりました。そこで国王は王宮にあった食料もわけだしました。しかし、国民はあまりにもたくさんいたせいで十分に与えることはできませんでした』それじゃあ、問題!このあと国王はどうしたと思う?」
「んー難しいですねー」
「『国王はやむをえず、弱者である奴隷たちや貧民を殺しました。それでなんとかしのいできたのです。この飢餓時代が終わったのは飢餓時代が始まった当時の王の孫・カイトの時でした。彼は残念ながら妻・メイコが娘を死産してしまいあと継ぎはうまれなかったそうです』今のあなたにはここまでね」
「わかりましたー」
「1つだけ教えておくわ。今の国王の名はカイトよ」
「何とか三世じゃないんですかー?」
「ああ、あれは父親から受け継がれる由緒正しい国王名らしいの。それがあるからこそ彼は疑われずに生きてこれたわけよ」
「なるほどー」
 お茶を飲み私はふと過去に思いを馳せる。

 私がカイトという名の老人に出会ったのはずいぶんと前のこと。私の年齢?気にしないで。
「私が死んだらこの国はどうなるのだろうか」
 彼はそればかり悩んでいた。そこでその当時死んでしまった彼の娘を使って生き返らせようと考えた。彼は喜んでくれた。しかし膨大な時間が必要と判明し、私は彼を水槽の中に入れた。

「ルカ先生?どうしましたかー」
「ん?いいえ、何でもないのよ」
 私は困ったように笑った。